もう20年以上前のこと、kaffaは福島県葛尾村の山の中で「kaffa葛尾」として、営業を始めた。

20代前半から、東京で無農薬の野菜を扱う仕事をしていたから、コーヒー豆も、当然、有機栽培のものを使いたかった。今のように世界中からオーガニックだの、フェアトレードだのの高品質の豆が選べる時代じゃなかった。たぶん、4種類くらいしかなかったんじゃないかなあ。

その中のひとつが、「エチオピア モカ ハラー」だった。その他には、メキシコとブラジルにそれぞれ、有機栽培の農園の豆が手に入った。何度も焙煎したけど、結局、エチオピア以外は好きになれなかった。その後、グァテマラの有機栽培が選べるようになり、これはおいしいなあと思った。 以来、エチオピアモカハラーとグァテマラの2種で自分好みのブレンドを作っている。

当時、オーガニック認証なんてものは日本にはなくて、エチオピアモカハラーは、「小規模農家による伝統的農法による栽培」で、農薬や化学肥料なんか使う金も労力もなく、「当たり前のオーガニック」とされていた。多分、農法と言っても、「栽培というより、採集に近い」、森に自生するコーヒーの実を収穫することが、その農法だったんじゃないかな。

グァテマラは、海外のオーガニック認証を持っていた。 その後、日本にも「JAS認証」が導入されて、グァテマラの農園はきちんとJAS認証をとった。だけど、エチオピアのハラーは、オーガニック認証なんて無視してる。多分、きちんとしたいわゆる「農園」じゃないから、認証なんて取れないし、取る気もないんだろう。で、今や我が愛するエチオピアハラーは、オーガニックとは名乗れない。kaffaが「なるべく」オーガニックなコーヒー豆屋と自称しているのは、そのせいである。

時代はかわり、エチオピアでも、農民が生産組合みたいなものを組織して、きちんと管理して、認証を取ったりしている地域もある。だけどハラーにはたぶんない。僕には見つけられない。

「きちんとした管理」と「きちんとした組織」…。たぶん、素晴らしいことなんだろう。農民にとって、 より良い生活なんだろう。世界中のコーヒー産地にあるであろう、管理された素晴らしい農園から産み出される高品質なクリーンなコーヒー豆たち…。素晴らしいことに違いない、とは思うんだけど。

エチオピアの高地の森の中で、自生している原生種のコーヒーの木に、季節毎に実るコーヒーの果実を、決してリッチではない家族が代々受け継ぐ狭い範囲を総出で収穫して、水洗いしないで果実のまま、ムシロみたいなものの上に拡げて乾燥、熟成させる。ちょっと発酵してる。ハラーの風土が味に刻まれる。ナチュラル精製の豆。それを麓の街から集めにくる業者に売る。そうして命を繋げている。貧しいけど、たぶん、不幸じゃない。管理も組織もない。野生のコーヒーに野生の人々。

これは、ただの僕のファンタジーかも知れないけど、kaffaが、「絶対にエチオピアハラーを使い続ける」であろう理由。

kaffa blendは、このエチオピアハラーのちょっと深煎りと、有機栽培グァテマラのかなり深煎りを2対1の割合で混ぜたものです。流行りのクリーンなコーヒーとは言えないかも知れない。けど、僕は、毎日、こればかり飲んで20年以上だけど、飽きない。おいしいです。